今回で『修行僧』解説は最後となるが、ここで本曲のミュージックビデオについて少し語っておきたい。
制作のきっかけとなったのは、配信サイトとカラオケチェーン店の共同企画で、インディーズアーティストの曲を一般のカラオケ店でも配信して歌えるようにするという、当時としては画期的なものであった。あれからもう何年も経つが、この「カラオケの鉄人」というチェーン店のサイト上で検索すると、今でも本曲はヒットする。店舗の所在地は関東圏で、実際に店舗で歌えるのかどうか私たちは確認できないのだが、ご興味のある近隣の皆様にはぜひ一度お試しいただきたい。
さて、現在はYouTubeで公開しているこのビデオであるが、サムネイルはご覧のとおり、険しい山岳の画像に行書体フォントで『修行僧』とある。いかにも厳つい修験者が猛烈な修行に勤しむ様子が連想されそうだ。
ところが曲が始まれば、テクノサウンドと共に、ポップな絵柄のアニメーションやイラストに切り替わる。
かと思えば、私のラップとギターが演奏されている箇所では、厳つげな実写画像の数々が迫り来る。
そう、ここでも楽曲と同様、キュートとダークという対比構造が存在している。
ちっぴパートに登場するイラストは、当時女子中学生だった毒ラズベリーさんという方に描いていただいたものだ。可愛くも空虚さのある表情でドリーミーな雰囲気が漂っており、とても気に入っている。
一方、貞子パートは全て実写である。猫の写真、祠(ほこら)の写真など様々なものがあるが、私の姿が写っているものは、2008年に撮影した。この年はライブ活動で多くの場所に出向いたため、様々なシチュエーションでの写真が多く残っている。
中でも一推しは、ギターソロで使用しているものだ。ネオン街の一角で、私が情熱的にギターをかき鳴らしている。ここは「ミナミ」の中心地で、深夜でも多くの人々が行き交う場所だが、人影が途絶える瞬間を狙って撮影した貴重なものである。なおミナミとは、大阪市中央区、浪速区、天王寺区などを中心とした街の総称で、オフィス街を主体としたキタ(梅田)と対照的に、歓楽街を主体としたエリアとなっている。
ちなみに本学園においては、深夜の行動はもちろん、繁華街に出向くこと自体推奨されない。この日は音楽活動と校外学習の一環として、特例であったことを付け加えさせていただこう。
また、実際のライブ会場で演奏する画像もある。これは知り合いの歌手のライブに、サポートメンバーとして参加した時のものだ。私は「学生陰陽師」というコンセプトのステージファッションで登場した。夏服の学生服を着てギターには呪符が貼り巡らされているという、そもそもどこに行っても注目を浴びてしまう出で立ちであったが、会場は心斎橋の高級ライブハウスで、紳士的な大人のムードが漂う空間であったため、とんでもなく異彩を放っていたに違いない。
そして電話中のシーンや鏡の前でポーズをとるシーンは、当時出演させてもらったポップカルチャーイベントでの控室で撮影したものだ。イベント全体の主催者は何と「関西国際空港株式会社」で、後援には近畿運輸局・大阪府・大阪市などの行政機関も並び、とてもお固いイベントかと思いきや、そのコンセプトは「オタク文化を関西空港に集結させる」であった。
実際に行ってみると、空港はとても綺麗で斬新なデザインの建造物が多く、私好みの場であった。空港全体がイベント会場となっており、あちこちで複数の催し物が同時開催され、まさにお祭り騒ぎだ。結果、空港内は無数のコスプレイヤーやステージ衣装を着けたままの出演者に占拠されてしまっていて、本来の空港利用客がどこにいるのか分からなくなるほどであった。機能的でシャープな構造の建屋と、集結した色とりどりのコスプレイヤーが不思議と融合し、現実離れした空間を作り上げていた。
私も学生服に呪符ギターを携え、顔が全面隠れるバイザーを装着して付近を散策した。ここは世界的な空港であるため、普段は警備も非常に厳しい。本来ならこのような格好で歩こうものなら直ちにセキュリティから声がかかるだろう。しかしこの日ばかりは当然お咎めなしで、とても貴重で楽しい体験であった。
このように歓楽街・高級ライブハウス・国際空港へと赴き校外学習を行ったわけだが、これらは「人生の修行」でもあるため、当時の写真を『修行僧』のミュージックビデオに収めた次第である。
アニメーション部分も加えた全体として、バラエティーに富んだ構成になったのではなかろうか。
さて、本曲の解説はこれにて完結だが、ここで一つ連絡事項がある。
12月の楽曲解説はお休みをいただき、代わりに、現在制作中の楽曲についてアナウンスする予定だ。タイトルは『走馬灯』。この季節にぴったりのスローでアンビエントな曲調であるが、エレクトリックな彩りが満載で、賑やかさも感じられる筈だ。
ではまた来月お会いしよう!