2020年2月28日

楽曲解説 『陰陽師』 第2話 - 背景

ところで陰陽師と言えば、皆さんはどのような存在だとお考えであろうか?
現代では小説や映画などに登場し、容姿端麗で呪術や占術を駆使する、神秘的かつアイドルのような存在として描かれるケースが多い。しかし実際の陰陽師は、その限りではなかったようだ。やはり現代の作品においては美化され神格化されている面があるだろう。確かにその方が浪漫があり作品を楽しめるので、それはそれで素晴らしいのだが、今日は、陰陽師への違った視点、意外な一面に触れるのも良いのではなかろうか。

陰陽師を現代の職業に置き換えると、何に相当するだろう。まずは気象予報士が近いところではないだろうか。あと、政治家の側近のような仕事もしていたようだ。つまり、占術等を駆使し、天候を予測したり、政治経済の情勢を読んだりしていたのだ。いずれにしても非常に重要な役職ではあるが、映画等で描かれているような華麗さはなく、ごく堅実な職業であったと思われる。スター性や神秘性とは無縁の、地味な存在ともいえる。安倍晴明の肖像画を見ても分かる通り、華美な点は一切無く、ごく普通の真面目そうな男性だ。

しかし、私にはその方が魅力的に感じるのだ。なぜなら、まだコンピュータもなく科学技術も全然発達してなかった時代に、一見地味な人達が、天候を予測したり、世の情勢を捉えていたのである。彼らの言葉ひとつで国が動くのだ。途轍もない黒幕のような威力を感じずにはいられない。ハリウッド映画でもよくあるように、一見冴えない地味な男性が、実は世界を牛耳る黒幕だった、というパターンの意外性やギャップが好きである。実際の陰陽師もそのような存在だったように思えるのだ。

私が「陰陽師」というタイトルで歌曲を作る事になった時、初めは魑魅魍魎に対し呪術で闘う、いわゆる典型的な華々しい陰陽師の姿をテーマにして、アップテンポで、軽快かつ雅(みやび)な雰囲気のものにするという案もあった。
だが、やはり上述したように、自分が本来陰陽師に対して持っているイメージを重視し、黒幕的で、奥底から来る威力が表現できるような、ミディアムテンポで暗い歌曲に作り上げる道を選択した。

[第3話に続く]
再来週の更新はお休み。
次回更新予定日は 3月20日(金)春分の日

2020年2月14日

楽曲解説 『陰陽師』 第1話 - 動機

作曲開始 2004年
Key=D♭マイナー

「陰陽師」という言葉をみれば通常は、平安時代などの和風で雅な印象を持つだろう。しかし、なぜか私には、また違ったイメージが浮かぶことがある。デジタル空間的、あるいはレーザー光線のようなものというか。おそらく「陰陽」という字面が「光と影」をも連想することから、その明暗のコントラストにより、電子的というか、未来的というか、そういった想像がかき立てられるのだと思う。
例えば暗闇の中、点いたり消えたりを繰り返す、切れかけの電灯のように、定期的或いは突発的な発光のイメージがよぎるのである。
この曲では、まさにそのような情景をもとに制作を進めていった。明滅する光の様子は、エレクトリックピアノのリフで表現されている。

当初の音楽的な計画としては、和風な要素を敢えて入れない予定でいた。理由の一つとしては、陰陽師という言葉からは、先述の通り私には電子的な光景が浮かぶからである。しかし、いま一度考えてみれば、『陰陽師』というタイトルにも関わらず和風要素が一切ない曲というのも、偏り過ぎているかもしれない。しかも自分自身、制作を進めて行く中で、気付けば頭の中ではある程度の和風音階が次第に鳴って来ているではないか!
そういうこともあって、ここは素直にインスピレーションに従って作る方が良さそうだ、と思い直した。

[第2話に続く]
次回更新予定日は 2月28日(金)