2022年1月28日

楽曲解説 『走馬灯』 第1話 - 融合

作曲編曲:中宮貞子女帝
  作詞:貞子+ちっぴ
作曲開始:2016年
完成発表:2021年12月25日
Key=C#メジャー
おまじない:心地好いまどろみへと導く

昨年末に発表した新曲『走馬灯』であるが、ここには学園催の掲げる理念が色濃く反映されている。
その一つが『αスキャット』 —— これは意味を持たない音声で歌われるパートで、歌詞は特殊な文字列で表記される。
その目的は「言葉の概念を超えて、頭を空にしてサウンドに没入する」ことである。

一般的に、ポップスでは歌詞に重点が置かれるものだ。歌詞の意味に共感したり、勇気をもらったりする。特に日本では歌詞が重要視される傾向にあるといわれている。私自身、気に入った曲の歌詞がどうしても聞き取れなくて調べたりするし、学園催の作詞においても、サウンド制作より苦労することもある。

しかし時には、言葉から与えられるイメージではなく、サウンドから生まれる世界に没入したいことがある。それはボーカルの入っていないインスト曲ではもちろん可能だが、歌モノでも同様なことを実現したいと、日頃から考えていた。

ところで、私の個人的な好みといえば、8割方がラウドな曲である。明るく派手でガツンと来る、破壊力のある曲が圧倒的に好きなのだ。
そして残りの2割は静かな曲となるが、よく聴くのはインスト曲で、アンビエントやヒーリング系が大勢を占めている。「アンビエント」とは「辺り一面」「環境」といった意味で、しっかりしたメロディよりも効果音がメインで構成される。
静かなボーカル曲といえばバラードとなるが、賑やかな曲よりも更に歌詞に重点が置かれる傾向にあるため、サウンドのみに集中するのはなかなか難しい。

そこでインスト曲を聴くことになるのだが、そうはいっても私は根本的に歌モノの曲が好きである。ヒーリング目的などでインストを長時間聴いていると、やがてボーカル曲が聴きたくなる。
「言語に影響を受けないアンビエントなボーカル曲」が聴けるならば一石二鳥といえるが、ある意味矛盾ともいえる条件なので、なかなか見付からない。ならば作ってしまえということで、『走馬灯』の制作は始まった。

ボーカルは、ほぼ全面的にαスキャットとし、まさに言葉の領域から離れ、音の世界に集中してもらうことを主眼とした。そのサウンドは、幻想的なアンビエントを基調としており、そこにノスタルジックな電子音、ノイジーなリズムトラックを融合させている。

実は本学園では、アンビエント系の曲は、アルバムでは数曲発表している。例えば、アルバム『陰陽師』に収録される『丸竹夷』や、ミニアルバム『阿僧祇』に収録されてる『無量数』などである。しかしそれらはメルヘンな雰囲気がありながらも、ホラーテイストが強く、うっとりと陶酔するような性質のものではなかった。まあホラーテイストもこれはこれでスリリングで良いものだが、今回はもっとこう、煌びやかで夢の楽園に居るような世界観のものにしたかった。
単に静寂だけではなく、明るさと刺激が融合した音世界を創ろうと考え、今回その実現に至ったのだ。

つづく

次回更新は2月25日 (金)