2020年8月28日

楽曲解説 『羅生門』 第3話 - 初心

皆さんは「四神相応」という言葉ご存知だろうか。
これは風水の概念の一つで、平安京を築くにあたり採用された都市形成の考え方である。
四神とは中国の神話に伝わる方角を司る霊獣で、それぞれに対応する方角と地形が次のように定められている。

  • 朱雀 -(南)  池・湿地帯・窪地
  • 青龍 -(東)  川などの流水
  • 白虎 -(西)  大通り
  • 玄武 -(北)  丘陵・山脈

この考えに則り都市を形成すれば、永く繁栄すると伝えられている。実際、平安京は1200年もの長期に渡り都であり続けた。やはり何らかの力があると感じずにはいられない。

本歌曲が収録されているアルバム『陰陽師』は、平安京を舞台に 朱雀→青龍→白虎→玄武、と京都の街を南から北へ順々に巡る「ミステリーツアー」をコンセプトとしている。歌詞カードに記された地図を眺めつつ、それぞれの名所にまつわる12の歌曲を旅行感覚で楽しめる構成になっている。

羅生門は正確には「羅城門」と記し、読みは「らじょうもん」となる。羅城とは都を取り囲む城壁を意味し、その城壁の最南端の中央に設けられた門が、都への入口に当たる。いわば平安京の正面玄関、始まりの場所なのだ。

つまり本歌曲は、旅の始まりという重要な地点を担う歌曲である。
歌詞の内容も、何らかを習得する為には、あるいは後悔なく生きる為には、基礎が重要であると謳っている。



ところで、私の座右の銘の一つは、「初心忘るべからず」という格言だ。人生の中で様々な課題に取り組んでいると、壁にぶち当たることがある。そんな時にふと初心に立ち返ると、解決策が見えてくるのはよくあることだ。
しかし多くの場合「初心に返る」ことができるのは偶然で、意図的にこれを行うのは難しい。

一方、「始めよければ終わりよし」「終わりよければ全てよし」という諺もある。
どちらも大切で、二つで対を成すと捉えるのが妥当だとは思うが、もしどちらがより大切かと聞かれれば、私は前者の「始めよければ終わりよし」だと答える。

この諺の一般的な解釈は、

最初がうまくいけば最後まで上手く事が運ぶものだ
だから最初は慎重にとりかかるべきだ

というものである。
だが考えてみれば、誰しも初めてのことに対しては、おっかなびっくりで慎重にとりかかるのが普通ではないだろうか。わざわざ諺にしてまで戒める必要がないようにも思える。
一方、何度も繰り返していることは、手際よく行えるかもしれないが、そこには油断や慢心が潜り込み、思わぬ失敗に繋がる可能性もある。

人間というものは、ゴールのイメージはしやすい。自分の成功した姿を思い浮かべたり、最後の一手を気を引き締めてやろうという意識は容易く持てるものだ。
しかし、日常の中で毎日、「今日が初日だ」という気持ちで挑める者は数少ないだろう。多くは時と共に、成長と共に、初心を忘れてしまいがちである。特に成功の度合いが高いほど有頂天になり、重大な判断を誤ってしまうことだってある。

そこで私は、何かのスタート時だけでなく、事あるごとにこの諺を思い出し、いつも襟を正すという使い方が有効だと考えた。始めたばかりの「謙虚な心」で常に行動することにより、「終わりよし」に繋がっていく。まさに「初心忘るべからず」である。

どんなに達人になろうとも、毎日「始めよければ終わりよし」という、まるで今日初めてやるかのように初々しい気持ちで挑みたいものだ。退屈な基礎が一番重要なのだが、上達するに連れそれを忘れていってしまう。そうならない為にも、聴く度に思い出させる歌曲を作ろうとの思いから、この『羅生門』が完成したのである。(完)

次回更新予定日は 9月25日(金)