2020年9月25日

楽曲解説 『映写機』 第1話 - 化粧

作曲開始1997年
Key = C# マイナー

この楽曲の原型が出来上がった1997年頃、私はヴィジュアル系バンドを組んでいた。当時のヴィジュアル系は、大きくは二つの方向性に分かれていた。主流となっていたのは、美しさを前面に押し出すものだ。そしてもう一方では、ホラー要素が強く、恐怖感を煽るようなバンドも存在した。私のバンドは当然、後者である。

ヴィジュアル系の発祥は80年代で、かつては「お化粧系」、「お化粧バンド」などと呼ばれていた。見た目が一番のウリだと思われがちなのだが、実は、ライブハウスシーンにおいては、音楽性や演奏力において非常に優れたバンドが多かったのだ。
中性的なルックスとは裏腹に、演奏ではハードロックやヘヴィーメタル、或いはパンクロックやグランジ等の、攻撃的なジャンルを基調としたハードなサウンドが絡み合う。そのコントラストが魅力となっていた。

こういった骨のあるバンドが大勢を占めていたにも関わらず、世間一般ではあまり音楽性には注目せず、TV番組などでもルックスばかりが取り上げられており、とても勿体無いと感じていた。私に言わせれば、むしろヴィジュアル系自体が、サウンド面において優れたカテゴリーだったのだ。

またヴィジュアル系は、日本発祥の、日本独自の、日本が世界に誇るカルチャーであると私は考えている。
もちろん海外にもヴィジュアル系に分類されるようなアーティストは存在していたし、実際彼らに影響されて日本のヴィジュアル系が確立していったとも言える。 しかし、私がそれでも「日本発祥・日本独自」だと思う理由は、その世界観とアレンジ力にある。日本人はしばしば、海外から取り入れたものを上手く消化し、練り上げ、再構築し、気付くと本家をも超え、更に発展した姿で世に送り出す、という能力を発揮する。車や電子機器などがその好例だ。
ヴィジュアル系も、まさにこうした経緯で独自に発展していったのだ。

元々は海外のグラムロック等を手本としていた筈だが、「元祖」と呼べる程の完成度で全世界を席巻し、今や海外の人々が熱烈に愛してくれているほどまで進化した日本のビジュアル系バンド。そこにはアニメや漫画などにもみられるような、奥深い世界観や物語性を追求する姿勢が反映されていると思うのだ。
そのあまりに広大な世界観ゆえに、サウンドの完成度があまり話題にならなかったとしたら、皮肉なものである。


さて私が組んでいたバンドにおいては、ホラー系でかつ、攻撃的で威嚇的な世界観をコンセプトとしていた。
サウンド面でも、メタル系のゴリゴリのギターリフやトリッキーなプレイを炸裂させ、ジャンル的にはインダストリアルと呼べるものだった。メンバーも厳つい男子5人組で、ツインギターであった。ちなみに私がバンド活動でツインギターを演ったのは、この時だけだ。

このツインギターには役割分担があり、私は先程述べたようなゴリゴリのヘヴィーリフ等の音楽的な面を担当し、もう1人はワーミーペダルを筆頭にありとあらゆるエフェクターを駆使し、効果音的な面を担当した。この2人のタッグで、ダークで重圧的でありながら、未来的でサイバーな世界が広がるサウンドを作っていたのだ。

この頃の私はまだ、電子音楽には携わっておらず、生バンドサウンド一色であった。だが、電子音楽への情熱は人一倍あったので、生楽器のみでの演奏にも関わらず、打ち込みのテクノグループかと思わせる程のサウンドを構築することに傾注していた。
なお現在の『映写機』も、その様子が伺える作りになっている。ハードロックでありながら、テクノの様相も見せる、というあの時描いたイメージが反映されている。

この曲は当時のメンバーからの評判が良く、またバンドのセットリストの中でも一番キャッチーな曲調だったので、演奏する機会も多かった。そういうこともあって後年、学園催でもリバイバルすることにしたのだ。
しかし、本学園でリメイクするにあたり、一つ問題が発生した…。

(つづく)

次回更新予定日は 10月23日(金)