2021年2月25日

楽曲解説 『新学期』 第3話 - 贈与

あまり言いたくはないが、実は私はフォークギターがあまり好きではなかった。

それは、私がロックに魅了された最大の要因が、エレキギターのディストーションサウンドだったからだ。刺激的で未来感があり、これこそが俺が目指すべきサウンド!という気持ちで一杯だった。ロックを彩る絶対王者としての風格。だからあの頃は、ディストーションで奏でられる楽曲以外は音楽と認めない、とすら思っていたのだ。

もう一つには、個人的にはフォークギターの音色が、昭和の古びたフォークソングを連想させたということもあった。無論そういう世界観を否定してる訳ではない。むしろ日本が誇る文化の一つであると感じている。だがフォークギターによる弾き語りには、自分好みの威勢の良さや爽快さを見出すことは難しい。
当時は、そういった理由でフォークギターを敬遠していた。

だがそんな私も数年かけて、フォークギターの良さを徐々に知ってゆく。
最初のきっかけとなったのは、あるハードロックバンドによる全面アコースティックのバラード曲を聴いた時だ。そのバンドはエレキギターによる技巧的な演奏を売りにしていたので、このギャップには衝撃を覚えた。そして、そもそもがテクニカルギタリストの楽曲なので、フォークギターを使っていながら、その随所に従来のフォークソングとはひと味違うニュアンスが垣間見えたのだ。抜けが良く華やかな音色、そしてギターソロ。「ああ、こういうのも良いね♪」と素直に感じたのを覚えている。

その後自分自身でも演奏する機会があり、地味なイメージを持っていたフォークギターも、使い方や演出の仕方を少し変えるだけで随分印象が違ってくることに気付かされた。
フォークギターには、自然さや独特の深みがあり、他の伴奏に埋もれないのに、歌を邪魔しないという絶妙な性質がある。これはフォークギターにしか出せない音世界だ。エレキギターもクリーントーンにすれば、バラードでも使える静かなサウンドを奏でられるが、残念ながらこの点では及ばない。

他にも、フォークギターには優位性がある。それはエレキギターのように大掛かりなセッティングが要らないということだ。アンプもシールドも電源もエフェクターも、一切不要。
何処でも手軽に、ちゃんとした演奏が再現出来る。小規模なパーティーやストリート等、人前で軽く演奏したい時、また部屋での作曲時にもそれなりの演奏が直ぐ行えるのだ。これは大きなメリットである。
勿論、レコーディングの本番でも上質な音を奏でてくれる。
コンパクトなのに、機能的で効果大。エレクトリックを主体に演って来た私には、とても有能で優秀な楽器に思えた。

更に近年でも、特筆すべきことが起こっている。フォークギターを使っていながら、スラップ奏法やパーカッシヴな技法を駆使した超ハイテクな奏法でインスト曲を奏でるスーパーギタリストの登場だ。かつては歌の伴奏役としか捉えられていなかったのが主役の座に君臨する存在となり、フォークギターの既成概念が根底から覆されてしまった。そこにはもう、古くささなど微塵もない。最新鋭の楽器とすら言えよう。

このように、フォークギターに対する私の意識は驚くほどの変化をみた。とはいうものの、自ら購入するまでには至らなかった。やはり自分たちが演奏するジャンルはハードロックやテクノであって、アコースティックとは対極を成すといえるからだ。フォークギターへの理解は深まれども自分の管轄ではない、という認識だった。
だから学園催でも、アコースティックのギターを使うという意向は全く持たなかったのだ。

だがそんな中、とある方からフォークギターを頂戴するという幸運に恵まれた。
その方からは、それまでも学園催の歌曲を愛聴頂き、また色々と勉強になるコメントやアドバイスも頂いていた。
人生の先輩として仰ぐその方から楽器まで授かったことで、ついに思い切って『新学期』で採用してみようという気になった。「ここらで一度、フォークギターを使ってみなさい」という神からのメッセージではなかろうかと受け止めることにしたのだ。

長年の作曲人生を通じても、自分の作品でフォークギターを使ったのはこれが初めてだ。しかもこのようなテクノ感・ハードロック感全開の歌曲で採用するとは思ってもみなかったが、それも学園催らしさの一つかもしれない。曲のメインで奏でられる電子音やディストーションサウンドとの相反するギャップが、なかなか良い効果を生み出しているのではなかろうか。

なおこの贈られたフォークギターは、後の歌曲『井戸水』でも彩りを添えている。本学園において、最も異質といえる『井戸水』だが、次稿からはその誕生の物語を綴るとしよう。(完)


次回更新予定日は3月26日(金)