2021年4月30日

楽曲解説 『井戸水』 第2話 - 変貌

本来、親しみやすい和風トランスポップになる筈だった『井戸水』。
これを如何にしてホラー系のサウンドに変えていったのか、実際に行った工程をいくつか紹介する。

先ずはメロディの改変だ。Aメロとサビを無表情で棒読み的な作りにした。音階はヨナ抜きなどの馴染みのあるものから、古典的な律音階の方向にシフトし、音程変化も少なくした。
ホラー映画において、西洋では、「ワッ!!」と脅かして恐怖を掻き立てるものが多いが、ここでは日本式の、す~~っと、静かに密かに忍び寄る霊のようなものを表現するようにした。

次にコード(和音)だが、Cメロ(1:35-)を除くほぼ全域において、コードネームが付け難く、ポップスでは滅多に使われない進行となっている。主に半音階で移動し続け、威圧感や恐怖感、不可解な印象を与える効果がある。この技法は通常、メタル音楽のリフや、ホラー映画やビデオゲームの緊迫した場面など、特殊な効果を狙う場面でのみ使われるのだが、本曲ではそれが延々と鳴り響く。この時点でもう、ポップスともトランスとも認識しがたい曲調になってくる。

また、変拍子も随所に取り入れた。特に間奏部分(1:23-)では、ドラムは4/4拍子を淡々と刻むが、他の楽器は変拍子の譜割りで演奏している。こういったリズムの実体が掴みにくい複雑な構成により、聴く者を現実離れした感覚へと誘う。

そして効果音も数多く使われている。
和太鼓やお寺の鐘をイメージした音により和風ホラーの風情を演出しているが、加えて、曲中あまねく挿入されているのが「人間の声」だ。不気味な笑い声、呻き声、わらべ歌の女声、そして重々しい呪文の男声など。実は全て私が演じている。以前、実際のお化け屋敷でスタッフをやっていた経験があり、雰囲気作りに一役買っているのかもしれない。


さて、このようにして完成した本歌曲であるが、既発表曲とのギャップに「何だこれは」と困惑された方もいらっしゃるのではないだろうか?
だがこの曲もまた、本学園の理念の一端を担っているのだ。
人は非現実的で異様なものを体験し恐怖を感じることで、日常を忘れ、不安から解放されるという側面もあると思う。ホラー映画を観たり、お化け屋敷に行ったり、絶叫マシンに乗ったりした後の爽快感や達成感も同様であろう。
「頭の中を空っぽにし、音世界に没頭する」ことで、明日への活力へと生かしていただきたい。

ところで、先程のホラー化工程紹介では述べていない、最後の極めつけともいえる重要なものがある。
それは『雅楽』である。我々日本人に馴染みのある音楽ではあるが、まだ詳しく知られてない部分や勘違いされている部分もあると感じている。
そこで次回以降は、この雅楽の正体、および本曲との関連について語っていこうと思う。


次回更新予定日は、5月28日(金)