テクノポップ部分とハードロック部分のメリハリを極限まで強化した『修行僧』。今回は、そのための工夫をいくつか紹介していこう。
まずはテクノポップ部分だ。主に四つ打ちのダンス系ビートで構成されているが、ハードロック部分との対比を考慮して、あまり派手過ぎるサウンドにはならないようにしている。また本学園の楽曲は基本的に、ダンスミュージックとして大勢で踊って楽しめるように制作しているが、逆に部屋で一人聴き込んで非現実的な世界に没入し、癒し効果を得ることも想定している。よって過剰な高揚感は避けるべく、音色選びにはかなり気を遣った。
一例として、イントロを始めテクノポップ部分の大半で鳴っている効果音も控え目な音色と音量になっている。これはスクウェアウェーヴ系の音色だが、トゲトゲする程まで高音域を強調せず、あくまで伴奏に徹する意識を心掛けて作った。ご興味のある方は、2:17~2:21の間では聴き取り易くなっているので確認していただければと思う。
ドラムパートについても工夫を凝らしている。本物のドラムセットでは、曲の途中で個々の楽器を入れ替えることは難しく、一曲を通じて同じ音で鳴らすのが一般的である。だがここは打ち込み音楽の特権で、学園催の曲では複数の種類を場面に応じて使い分けることがよくある。
今回のテクノポップ部分では、特にオーソドックスで電子音楽に適した分かり易い音源を選んだ。ここは機械的であればあるほど良い。一方、ハードロック部分は正反対の要素、つまり生バンドサウンドの再現を試みた。これにより機械的vs人間味、というコントラストを強調している。
ハードロック部分のドラムは、生ドラムをサンプリングした音源から厳選したのだが、より気を遣ったのがその鳴らし方だ。
生身の人間が実際にドラムを叩く場合、どうしても均等に演奏することはできない。音の強弱やタイミングには必ずバラつきが出てくる。特にスネアドラムではスティックが当たる場所によっては音色までも変化する。こういう不均等さこそが人間味であり、バンドサウンドの醍醐味と言えるだろう。
この曲ではそういった要素をなるべく再現するよう試みた。もちろん私はドラマーではない。だがかつてのバンド時代には、スタジオ練習の休憩時間に時々ドラムを叩かせてもらって、一応の感覚を掴んでいた。それをヒントに、より人間に近いプレイを想定して音符を打ち込んでいったのだ。かなり面倒な作業になったが、その効果は十分に出ていると思う。
次に、ハードロック部分のギターリフである。お聴きのとおり、なかなかのヘヴィな仕上がりだ。
チューニングは通常のレギュラードロップDチューニングだが、それ以上の重厚感を演出するため、少々意外ともいえる弾き方をしている。
通常このようなヘヴィーリフを弾く場合は、低音の6弦5弦を同時に鳴らし、分厚さを稼ぐものである。これはパワーコードと呼ばれ、ハードロックやメタルにおいては定石的な奏法である。
私も最初は、このリフをそのように弾いていた。だが、自身でイメージしているほどの厚みが出ていない。頭の中の完成図ではもっとガツン!と来ているのに、なぜだ……。
何とかそのレベルまで引き上げるべく、弾き方を変えつつ何パターンか録音しては聴き比べる、という試行錯誤を繰り返したところ、ある手順で弾いたフレーズに厚みが増して聞こえるものがあった。
それは6弦と5弦を、常に同時に弾くという従来のパワーコード奏法ではなく、時折バラけさせて弾くアルペジオのような奏法を織り交ぜるというものだった。
アルペジオ的奏法は本来、音を軽くする筈なのだが、何故かヘヴィーに聞こえるという…。この矛盾にも思えるようなこの現象が起きた理由は、明確には分からない。だが実際、分散して鳴らした音の残響が、共鳴するかのように重厚感を演出してくれたのだ。このフレーズ、このサウンドセッティング、他の楽器との兼ね合いといった様々な条件が、たまたま重なったのかもしれない。
ともかく試行錯誤すること自体の持つ重要性を再確認できた。何かしら糸口は見付かるものだ。ことに音楽は正解のない世界と言われているので、より意味があると思う。このような経緯で、本曲のギターリフは出来上がっていった。つづく